東京地方裁判所 平成4年(モ)30288号 決定 1992年8月06日
主文
本件申請を却下する。
理由
1 本件申請の趣旨及び理由は、要するに、申請人は、被相続人冨井わかの公正証書遺言によって遺留分を侵害されたので、相手方に対して遺留分減殺請求の意思表示をし、これに基づき別紙物件目録記載の不動産(以下「本件土地」という。)について所有権移転登記請求権(申請人の共有持分一四分の一)を有するが、被申請人らが登記手続に協力しないので、上記所有権移転の仮登記を求めるというのである。
2 しかしながら、遺留分減殺請求に基づく所有権移転登記請求権の存在の判断のためには、当該相続人が具体的に遺留分を侵害されていること、その具体的遺留分額及びその相続財産の中に占める価値的割合等が明らかにされる必要があり、そのためには、被相続人の相続開始時の積極的・消極的全財産の範囲及びその額並びに当該遺贈のほか算入すべき遺贈・贈与の存在及びその額等の諸事実が立証されねばならないのである。そして、仮登記仮処分の制度上、裁判所は所有者を審尋することができず、かつ、所有者の不服申立ての制度も所有者のための損害担保の制度もないこと等に鑑みれば、仮登記仮処分の審理においては、上記のすべてについて、所有権移転登記請求権を有すると主張する申請人において疎明すべきものである。
ところが、申請人は、要するに、本件土地及び同土地上の建物について被申請人に相続させる旨の遺言の存在すること並びに自己が抽象的な遺留分権利者(民法一〇二八条)に該当することを疎明するにすぎず、上記の具体的な所有権移転登記請求権の存在についての疎明はないというほかはない。
3 よって、本件申請は理由がないから却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 杉原麗)
別紙 当事者目録<省略>
別紙 物件目録
東京都渋谷区恵比寿西一丁目三一番一〇
宅地156.29平方メートル